月夜見
 残夏のころ」その後 編

   “問題大ありの すーぱあクールビズ”


さても、このところ、
まだ梅雨も来てないのにという頃合いから、
そのまま真夏へなだれ込むんじゃないかというよな
とんでもない猛暑が続くようになり。
そういや猛暑日ってのが一般的にも使われ出したころから、
そんな感じで凄い暑かったよな。

 でも、衣替えの当日は何でか急に涼しくなってサ。
 そうそう。
 やっと待望の半袖になったのに、
 教室でじっとしてると寒くなったりしてサ、と

その猛暑のお陰様、こちらでも早々と
先日来から冷房を入れ始めた店舗内にて。
菓子や乾めん類の補充にかかる若い衆が、
店内もちょっと寒いと言いたいか、
上っ張りを羽織ったままなのが何とも正直で。

 「あれって、どうしたもんだろうな。」

 大きいスーパーや銀行なんぞの窓口業務ではよ、
 1日そこに居なきゃなんねぇが、
 客への印象も大事だからって責務もあってのこと、
 冷房に震えながらも半袖で通さにゃならんかったらしい。

 「そうっすね。」

 けどよ、昨今はクールビズどころか、
 スーパー・クールビズなんてのも浸透して来てて。
 ストップ温暖化ってポスター貼れば、
 冷房止めて、その代わりみたいにアロハやカリユシ着て
 いかにも夏だからっていう ラフなカッコで
 仕事して良いって傾向になってるだろ?

 「ウチも冷房切って、そっちへ右へ倣えすんですか?」

 「そこがなぁ…。」

直販スーパー“レッドクリフ”は、
売り場全体の半分より多い青果売り場の そのまた大部分が、
ほぼ青空市場風、屋外に開けているテント式の開放型店舗なので。

 「開放部への猛暑対策に、
  ミスト式の空冷システム入れたほうが、
  よっぽど皆から喜ばれますぜ。」

 「やっぱ そうかなぁ。」

冬場の極寒への対策が甘いぬるいと、
甥っ子から さんざん文句言われたの、
これでも気にしておいでの赤毛の店長。
二階の執務室こと社長室へと上がりつつ、
頼もしい副店長さんの助言へ、
うんうんと頷くことしきりなご様子で。

 「第一、
  何か手を打たないと、
  ルフィの奴、アレを敢行しかねませんぜ?」

 「〜〜〜あれなぁ。」

そりゃあクールなベックマン副店長は、
あくまでも さらりと放った一言だったが。
聞いた側のシャンクス店長、
うぐぅふと妙な声を出したそのまま、
必死で爆笑しかかるのを押さえ込んでから。

 「笑って済む俺らはともかく、
  お客さんから妙な誤解されかねんもんなぁ。」

 「そうっすよ。」

通報されたらどうします。
え? そういう問題になるのかアレ、と。
何だか微妙なことのような扱いになっているらしき、
特売日の稼ぎ頭にして こちらのマスコットボーイ。
そんなルフィさんが、
一体 何をまた問題視されているのかというと…。




この時期の青果というと、
夏の長ナス、新じゃがに新ショウガ。
水菜にオクラに、ミョウガにソラマメ。
柑橘がいろいろに、
ビワもスイカもそろそろお目見えで。
自家製のを漬ける方も多いラッキョウに、
青梅や赤シソも そろそろ入荷はいつかと訊かれる頃合いかと。

 「夏、なんだよなぁ。」

今んトコは じわじわって入れ替わりようだし、
まだまだ春先の商品も美味いのが健在だがよ。
この暑さだし、
そうめんだの焼きナスだのゆでたソラマメだの、
ああもうそんな時期だわよねぇって、
お客さんのほうから話してくれるよな頃合いになってんだしサと。
小柄で童顔ながらも、さすがはこの売り場で結構長いバイト歴を誇る身。
そういった“今時分”の話にも通じておいでで。
冬場もきついが夏場もここって大変なんだよなと、
補充された水菜や小松菜を平台へ並べつつ、
そろそろ午後からのお客さんで混み合う時間帯
……を待つちょっとの寸暇、
補充用のあれこれを持って来た、
搬入班の短髪の剣豪さんと、何て事ない話をするのが、
何より楽しみな今日このごろだったりし。

 「なあ、ゾロだって夏だなぁって思うんじゃね?」
 「そうっすね。」

相槌を打たれると、何でか妙に嬉しくて。

 「だよな、だよな♪
  だって作業着、今週から半袖になってっし。」

そんな風に付け足せば、
いやまあ、そうっすけど…と、
何を付け足せば良いのやらと口ごもるのがまた、
男臭い照れようで。

 “うあ、カッコいいじゃんか。/////////”

何でかな、何でだろ。
同じガッコにも たっくさん男らしい先輩いるのにな。
頼もしくて男臭い先輩もいっぱいいるのにな。

 なのに、何でか
 知り合ってすぐにも、
 この無愛想なお兄さんが気になってしょうがなく。

ルフィさんよりも実は年上だけど、
高校生としての学年もバイト歴も後輩という、
何だか ややこしい間柄のお人だが、
割と気安く口を利いてくれていて。

 何でかな、何でだろ

あんまり無駄口を利かないのがカッコいいとか、
がっつり雄々しい体つきなのがうらやましいとか。
そんなこんなと思うよになって、
バイト先の此処に来れば、まずはと目で姿を探すようになって。
そんな自分だと気がついた頃にはもう、
探さずにはいられなくて、
見つかると今度は何か、
胸や胸と腹の境目とかが
ほこほこって暖かくなるよになって。

 自分でも何が何でかよく判らないのに。

そんな自分のはしゃぎようへ、
何でだかゾロも よく付き合ってくれてて。
だから余計に安心して、甘えるっていうか、
構っておくれって気分が増すっていうか。

 「だからさ、
  俺ら売り子の方は
  エプロン? 前掛けしてたら、他は自由のはずだのにサ。」

今日はガッコが早上がりだったんで、
もちょっと早い目に入って、売り場の整理とか手掛けてて。

 「そん時、凄げぇ暑かったから、
  タンクトップに短いジョギパンってカッコで
  バタバタって片付けててさ。」

見回りに来たシャンクスが、
こらこらエプロンしねぇかって言うもんだから、

 「その上から こやって羽織ったら、
  馬鹿やろ、そんな卑猥なカッコすんじゃねぇって。
  …………ゾロ、どした? ポカリ、気管に入ったんか?」

げっほ・げほげほと、それはそれは苦しそうに咳き込むお兄さんなのへ、
こやってと、そのまんまのカッコをして見せたルフィさんが、
どらどらと背中をさすってあげたけど。

 “う〜ん、あれでは収まるものも収まらぬかも。”

 “ちゃんと説明訊いてても、
  見た目はモロに 裸エプ●ン状態だし。”

鼻血吹いても俺ら笑いはせんかったぞ、兄ちゃんと。
親切なのか深読みしすぎか、
周辺に居合わせた他の店員の皆様が、
一斉に見ぬ振りしたのはここだけの話でございます。




      〜Fine〜  14.06.03.


  *いえね、ウチのルフィさんたちって、
   夏場の露出度高すぎないかと思ったもんで。
   特に こちらのルフィさんは、
   いつぞやも水遊び用のリゾートウェアを試着したし、
   ゾロさん、眼福なんだか 災難なんだか…。(大笑)


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